春は、
春は、もの哀しい。 ぼうっと、月が光っている。朧月夜だ。 「菜の花畑に入り日薄れ 見わたす山の端 霞深し」 (「朧月夜」 作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一) 別れの時季だからなのか。では、新学期や新年度が9月頃に始まったら、どんなことを想うのだろう。 冬の緊張から解き放たれた気の緩みのせいか。オーバーに言えば、自分はとにかく生き残った。その、少しの後ろめたさのせいか。 「吹雪の晩に 凍えた鳥か、 白い鳥が一羽 赤い実くわえて 空の方向いて死んでいた。」 (北原白秋「白い鳥」) 冬が去って行く森を歩くと、冬の間に息絶えた命を見つける。どんな夢を見ていたのだろう。空の方にどんな大切なものがあったのだろう。 それでも、あらゆることをたった今からリセットする、もの哀しさの正体。 「辛夷(こぶし)の花のさく頃は、 みんなが笑って居りました。 みんなが歌って居りました。 みんながゆめ見て居りました。」(北原白秋「あの頃」)