川は。
橋を渡るとき、いつも川の上流を見遣る。 源流となる湧き水や雨。水たまりの底の礫と礫の隙間から、細かな粒を踊らせながら川は生まれる。 「一跨ぎの滝」という幅の狭い滝は、弱々しい水音を聞き当てないと見落としてしまう。 名前も付いてない細い沢を何本か集めると、それでも流れは速くなり、水量を増して岩場を滑り落ちる。「熊の滑り台」と名付けた人はすごい感性だ。畏れと滑稽さが絶妙に合わさって、熊以外の森の動物では表し得ない。 流れがひと休みする静かな瀞(とろ)。この後、川はまた何本も小さな川を集めながら、中流となり、里や街を走り抜ける。これからの長旅に備えるかのような、穏やかな川面だ。 山や森から始まった川は、速さを変え、音を変え、方向を変え、色を変え、役割を変え、源流の面影さえ変えて、やがて下流と呼ばれ、海に辿り着く。 海辺の町の川は、あの森とは繋がっていない。それでも、上流を見遣る。 窓を開けてこれを書いていたら、肌寒くてカーディガンを羽織った。秋鮭が生まれ故郷に帰り着く季節はほんの一瞬で、すぐ流れて行く。 "Moon River" ...