観測史上、最も

  久しぶりに思いのままに過ごせる休日。朝食後、ビニールハウスの中に野菜の種を蒔いた。冬場、鶏たちが走り回る森には青物がなくなるので、わずかでも好物の青菜を与えたいと考えてビニールハウスを建てた。ビールハウス内の温度は今の時季だと25℃くらい。野菜の発芽温度を調べて、くきたち菜、小松菜、菜花を選んだ。肥料はもちろん自家鶏糞にしたかったけれど、鶏たちはあちらこちらで用を足すので、どこで糞をしたのか後を追いかけるのも主としては情けない。おまけに愛犬がその鶏糞の味をなぜか気に入り、食べていたのが判明。食物繊維かなんかのサプリのつもりなのかな。しょうがなくホームセンターで乾燥鶏糞を購入しビニールハウス内の土に施した。今後は、計画的に鶏糞を集める工夫をしよう。鶏のためだけでなく、自分のためにも高菜を選んで蒔いた。収穫した高菜をひと冬塩漬けし、低温発酵させる。それを夏の強い日差しで乾燥させ、また塩を塗(まぶ)し、冷蔵庫で低温発酵させて完成。粥の具にも、炒め物の塩味にも最高だ。台湾で食べて以来、虜になった。たぶん、臭豆腐の付け合わせだったと覚えている。舌が。

 種蒔きが終わって外に出ると、気温は12℃、黒ビールがおいしい季節だと閃いてしまった。家に戻ると室温は20℃くらい。たぶん、ビールの温度と今の室温は最高のマリアッジ?のはずだ。それを観測しなければ。そんな責任感から選んだのはギネス。別にこだわらないのだが、この前テレビでアイルランドの旅番組を見て擦り込まれたみたいだ。

 ギネスの栓を開ける。塩味&セサミのプレッツェルも一緒に買ってある。ここらへんは抜かりない。どれどれ、色も楽しみたいのでグラスに注ぐ。当たり前だけれど黒い。泡とビールのバランスを測り、よし。

 あああ、おっ。今年の観測史上最もうまい。当たり前田のクラッカー、この秋初めての黒ビールだ。 

 自分だけが選んだ今年の流行語大賞は「観測史上、最も」だ。「観測史上、最も暑い8月」「観測史上、最も早い桜の開花」「観測史上、最も遅い夏日」「観測史上、最も遅い初冠雪」「観測史上、最も多い降水量」などなど。これらの全部が地球の気候の異常さを突きつけていると言って間違いない。「観測史上、最も」で表されたよい意味のニュースはなかっただろうし、11月中旬になった今でも台風が発生している。

 1996年から2004年まで光村図書版・小学校5年生の国語の教科書に採用されていた「1秒が1年をこわす」(伊藤和明氏著)は、今を的確に予測した名著だと思う。地球が誕生してからの46億年を1年に例えると、人類が誕生した400万年前は、新年を迎える7時間前。お坊さんがそろそろ除夜の鐘を撞く心構えをする頃だ。そして工業が発達し化石燃料を消費し、地球環境を傷つけるのを無視して人間が快適な暮らしを始めた200年は、107回目の鐘の音の余韻がまだ残る、12月31日午後11時59分59秒からだ。著者の伊藤氏は、このままだと「人間は大きなしっぺ返しを食う」と予測し、書いていた。教科書に掲載されていた頃、まだ「観測史上」の言葉を聞くのはまれだったと思う。自分が子どもの頃に「暖冬異変」という言葉を聞いたことがあるが、「地球温暖化」という言葉は知らなかった。この名著がもう一度教科書に採用されて欲しい。もちろん、大人にも読んで欲しい。新年になって撞かれるのは最後108回目の除夜の鐘。「貪・瞋・痴(とん・しん・ち)」のどの煩悩を消してくれるのだろう。

 小春日和の夕方、他の色が消え、鎮魂のための紺色になった山を眺めた。自分で「観測史上、最も」を感じられたら、毎日がいい日になるだろう。「観測史上、最も泣ける夕焼け」「観測史上、最も雅な錦秋の紅葉」「観測史上、最も心地よい風が吹く日」「観測史上、最も薪割りしないとあせる朝」「観測史上、最もじいんとくる満月」「観測史上、最も黒ビールに合う昼(と晩)」「観測史上、最も禁酒したくなる闇夜」「観測史上、最もおでんがうまい夜。特に、ばくだん、フランク、里芋。あと、、ぬる燗ね」。そして何より「観測史上、最も平和な日」。

 自分だけの「観測史上、最も」を見つけるのは難しくはない。例えば森で自分の木を決める。その木を時々眺めていたら、関わりが持てる。そして、いつもとちがう美しさ、価値を発見できるはずだ。目を向けることから始まるのだと思った。

 地球に生きる自分の時間や暮らしを見つめ、そしてついでに身近な環境を見つめたらいい。そして、自分だけの「観測史上、最も」よいことを見つけたら、それを誰かに伝えてみたら、いい。 











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