雪がしんしんとふっています
「雪がしんしんとふっています」 杉みきこ作「わらぐつの中の神様」の書き出しである。この一行を読んだ瞬間、冬景色が目の前に広がり、それが自分の心の中に情景となってふくらみ、物語の世界に引きずり込まれる。 静かさ。でも寂しくはなく、心が落ち着く。 寒さ。厳冬の寒さだ。でも、鋭さは感じない。 そして、日が暮れてからがふさわしい。目よりも耳の方が雪の気配をより感じるからだ。 自分はどうやってこの言葉の情景を手に入れたのだろう。今となっては確かめる術はない。 そこで、小学校で4年生を教えている友人に頼んで、「雪が( )ふっています」という文を子ども達に提示して、「雪が静かに降りつもる様子」を子ども達がどんな言葉で表すか調べてもらった。 「朝から」「夜から」「ちらちら」「ぱらぱら」「いきなり」など、知っている言葉をたくさん発表してくれたようだが、「しんしんと」は出なかった。 「わらぐつの中の神様」は長い間、光村図書の小学5年生の国語の教科書に採用されていた。残念ながら、今年度から教科書には載っていない。つまり、「雪がしんしんとふる」情景に子ども達が出会う機会が一つなくなったということになる。多くの子ども達がこの先この言葉に出会い、使い手となり、さらに後の世代に伝えていってほしいと願っている。 時代が変わると、新しい言葉が生まれると同時に、それまで人々の暮らしや心を彩っていた言葉も役目を終えて消えていく。同じ日本人同士の会話でも、世代が違うと通訳が必要になってしまう、もしかしたらそんな時代が来るかもしれない。 時代が変わっても、世代が異なっていても、同じ日本語で話し、日本語の美しさを共有したい。そのために日本語教師は何をすべきなのだろう。日本人に日本語を教える役割を担うようになってほしい。 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 (三好達治 「雪」)