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雪がしんしんとふっています

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「雪がしんしんとふっています」  杉みきこ作「わらぐつの中の神様」の書き出しである。この一行を読んだ瞬間、冬景色が目の前に広がり、それが自分の心の中に情景となってふくらみ、物語の世界に引きずり込まれる。  静かさ。でも寂しくはなく、心が落ち着く。  寒さ。厳冬の寒さだ。でも、鋭さは感じない。  そして、日が暮れてからがふさわしい。目よりも耳の方が雪の気配をより感じるからだ。  自分はどうやってこの言葉の情景を手に入れたのだろう。今となっては確かめる術はない。  そこで、小学校で4年生を教えている友人に頼んで、「雪が(    )ふっています」という文を子ども達に提示して、「雪が静かに降りつもる様子」を子ども達がどんな言葉で表すか調べてもらった。 「朝から」「夜から」「ちらちら」「ぱらぱら」「いきなり」など、知っている言葉をたくさん発表してくれたようだが、「しんしんと」は出なかった。 「わらぐつの中の神様」は長い間、光村図書の小学5年生の国語の教科書に採用されていた。残念ながら、今年度から教科書には載っていない。つまり、「雪がしんしんとふる」情景に子ども達が出会う機会が一つなくなったということになる。多くの子ども達がこの先この言葉に出会い、使い手となり、さらに後の世代に伝えていってほしいと願っている。  時代が変わると、新しい言葉が生まれると同時に、それまで人々の暮らしや心を彩っていた言葉も役目を終えて消えていく。同じ日本人同士の会話でも、世代が違うと通訳が必要になってしまう、もしかしたらそんな時代が来るかもしれない。  時代が変わっても、世代が異なっていても、同じ日本語で話し、日本語の美しさを共有したい。そのために日本語教師は何をすべきなのだろう。日本人に日本語を教える役割を担うようになってほしい。  太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。  次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 (三好達治 「雪」)

森と暮らす単位

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 森に暮らすようになって、いろいろな単位を知り、自分の言葉として使うようになった。  1町歩 (ちょうぶ):森や広い牧草地などの面積を表すのに使う。約3000坪 1ha 1反(たん):田畑の面積。「反歩」(たんぶ)とも言う。約300坪。畑を1反借りようとしたら5000円と言われ、毎月分かと思ったら年間5000円ですごく感動した。  1畝(せ):小さな畑など。約30坪 10m×10mくらい。庭の広さには使わない。  1立米(りゅうべ):薪の体積。1立方メートル。わが家では1年で7立米の薪が必要。重さだと4~6トンくらいになる。  1間(けん):建物の柱と柱の間や、入り口の幅など。約180cm。そこに使う材木の長さを言う時は「尺」や「寸」「分」を使い、1間=6尺。  1匹:かめ虫、かなちょろ、山椒魚、栗鼠(りす)青大将、愛犬、隣の家の猫、狸、狐。  1羽:赤啄木鳥(あかげら)、青啄木鳥、梟(ふくろう)、その他大勢。  1頭:日本猿、猪、月の輪熊 日本鹿、日本羚羊(かもしか)ホルスタイン。  1齣(こま):チェーンソーの刃。椎茸栽培に使う種は「駒」の字。  1杯(はい):朝は船橋の「ゆら」の1杯のコーヒー。夜は飲む物が変わり、「1杯」から「いっぱい(飲む)」と副詞に変わる。広告代理店で働いている頃、「何杯飲んでも1杯500円」というコピーを書いて、客に「騙された」とウケた。クライアントにもウケた。「1杯や(飲)っか」はだいたい1杯で済むわけがなく、「いっぱいやっか」なのだ。  これらの言葉を使いこなしている人達を「かっこいい」と憧れて森に住んで20数年。言葉は使いこなせるようになったが、かっこよくはなっていない。         

い・ける(埋ける・活ける)

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 毎年冬になると、農家の忍ちゃんがたくさんの大根や葱、白菜を届けてくれた。  以前は畑に大根と葱を埋けていた。でも、畑に雪が積もると大根と葱は行方不明になり、また、畑の土が凍ってしまうと掘り出せなくなる。  そこで知恵を絞り、ここ数年はプランターの中の土に大根や葱を埋け、その上から菰(こ も)を被せてベランダに置いている。白菜は忍ちゃんに教わった通り、新聞紙で包んで(くる・んで)保存しておく。野菜を土に埋めて保存することは「埋ける」という字を使うけれど、「活ける」という字の方がぴったりとくる。大根も葱も生きているからだ。活けておいた大根のてっぺんに淡い緑の葉が出てくる頃、冬が終わる。  今年は、忍ちゃんがいない冬。それでも教わったとおりに野菜を活けた。  寂しいぞ、忍ちゃん。

冬が来た

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 森に冬が来た。  昨日の夜からちらちらと雪が降り始め、起きたら冬の朝だった。 こんな日は、高村光太郎の「冬が来た」という詩を声に出してみる。    きっぱりと冬が来た   冬よ 僕に来い   刃物のやうな冬が来た (抜粋)  これらの言葉が体に入ると、潔く冬と向き合おうという気持ちになってくる。  背筋が伸びる、大好きな詩。  森の長い冬が、始まった。