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ベーコン始めました

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 毎日が秋になった。   夜、外気温が10℃を切るようになると忙しくなる。ベーコン作りの季節の始まりだ。  27年前に始めた、唯一の趣味だ。でもなかなか特技までには至らない。飽きっぽい性格なのに、よく続くものだと我ながら驚いている。  ベーコン作りは、材料も方法もとても素朴で、地方でもどこでも手に入る。  何より、肉。新鮮な豚バラの塊を肉屋から手に入れる。新鮮な肉は脂肪がきれいな白色をしている。1回に約4kgの塊を仕込んでいく。豚バラの塊は厚さがだいたい5~10cm、横30~40cm、縦は60cmくらいだ。これを10切れぐらいに分ける。脂の多い部分や赤身の多い部分があるが、「三枚肉」と呼ばれるように脂と赤身が程よい具合に層になっている部分が美味しい。切り落とした筋や膜、余分な脂は青菜と一緒に煮込んで愛犬のご馳走にする。  塩は精製塩でなく、岩塩や海塩をその時の気分で使い分ける。肉に直接擦り込むので粒は細かい方が使いやすい。彫刻刀の細い平刀が8枚並んでいるような作りの「ミートソフター」という筋切り用の器具を肉に刺して穴を開けて、肉の内部にも塩や香辛料が入り込むようにする。通販で1000円もしなかったが、もう何年も何千回も刺し続けている。  砂糖は塩の1/4くらいの量を、コクを出したい気分のときは黒砂糖や赤砂糖、寒くなってくると優しい味のきび砂糖を使っている。まあ、自分を信じることだ。  チップは森の山桜の枝を手折り、使った。ああ、いい香りだ。それもそのはず、チップは焼(く)べる前に、ウイスキーに浸してみた。浸すのに使った分と飲んだ分のどちらが多いかは証拠がないから分からないなあ(と、煙(けむ)に巻く)。  香辛料の組み合わせは、凝りすぎると天文学的というか迷宮入りというか、悩みすぎて楽しめなくなるので、いたって少なくし、毎回変えては楽しんでいる。必ず使うのは、黒こしょうか白こしょう。黒こしょうは香りが強い。脂に付いたままにして仕上げ、焼いて食べるとワイルド(野趣あふれる)な味である。白こしょうを使うと香りは優しい。脂が白いままに仕上がるのできれいだ。  この秋から使い始めた香味野菜は、玉葱と生姜と大蒜(にんにく)。「手作りベーコン」や「自家製ベーコン」を謳って売られているベーコンでも、原材料表示を見ると保存料、発色剤や結着剤、合成着色料、アミノ酸などを使ってい...

鳥取

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  間もなく着陸態勢に入ると、機内アナウンスが伝えた。同時に満席の機内の前の方から、赤ん坊の泣き声がぼんやりと聞こえてきた。飛行機の降下で気圧が上がり、鼓膜が痛くなる。赤ん坊は何が起きているのか分からず、痛みを訴えているのだろう。その泣き声も赤ん坊をあやす親の声もぼんやりとしか聞こえないのは、自分の耳も痛いからだ。  痛みを紛らわすために真っ暗な窓の外に目をやると、翼の下の方に白い灯りが点々と見えた。目を凝らすと、白い灯りに円く照らされた部分だけ白い皺が見える。海面だ。白い灯りは白イカ漁の漁り火だと気付いた。鳥取空港は海に面しているし、今は鳥取名物白イカ漁の漁期だ。「機体」は下がり、逆に「期待」は高まってきた。  飛行機はますます高度を下げ、今度は家々の上を掠めるように滑っていく。そして、車輪が地に着いた音と衝撃があり、飛行機は急ブレーキをかけた。体が前のめりになるのを踏ん張っていると、やがて体が楽になり、そして止まった。とうとう鳥取に着いた。  鳥取砂丘コナン空港の到着ロビーには、懐かしい表情のKちゃんが出迎えてくれていた。短い言葉で挨拶し、抱き合って2年ぶりの再会を喜び合った。  翌日は、Kちゃんイチオシの「投入堂」に「挑戦」だ。正式名称は「三徳山三佛寺奥院」、天台宗の古刹で国宝、しかも日本遺産第1号という有り難いお寺だ。なのに何で「挑戦」かと言うと、別名「日本一危険な国宝」らしい。道のりは約660mでなんてことはない。ところが、出発地点からの標高差は220mだ。久しぶりに三角関数で計算してみると、傾斜角度は約19°28′。平らな部分を含めてだ。崖の箇所は鎖がある。崖の窪みに両手の指先と両足のつま先をかけ、額を岩肌に触れさせながら尺取り虫みたいに這いつくばって登っていく。まるで縦型「五体投地」だ。唱えるのは「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」。自分は無宗教だが、役行者(えんのぎょうじゃ)になったようで気分はよかった。  この日のためになぜか禁酒してきた。体を伸ばせるだけ伸ばし、屈めるだけ屈み、霊気を吸えるだけ吸い、邪気を吐けるだけ吐き、尺取り虫と化して進んで行く。Kちゃんに「本当に鳥取に来たかったのか試してんの?」と減らず口を叩いていたが、やがて無口になった。投入堂まであとどれくらいなんて考えるのは六根清浄ではない気がして、無心になったのか思考停止になっ...