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世界を白く染める雪

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 「恋人よ 恋人よ     世界を 白く染める雪が      音もなく降り積もるように        穏やかに愛していけたらな」 ~かりゆし58「恋人よ」(アコースティックVer)~  久しぶりに雪が積もった。20cm程だろう。除雪をしようかどうか迷う積雪量だけれど、除雪機代わりのバックホウをしばらく動かしていなかったので、点検を兼ねてやることにした。ちなみにバック「ホーン」ではなく、「ホウ(Hoe 鍬)」だ。でも、どっちを言っても通じるし、「ホウだ」と言い直させるような心のせまい人はここらにはいない。(ここに一人いた!)別名ユンボは商品名らしい。  毛糸の帽子、「低温曲げ試験-60℃」と表示されている防寒手袋、防寒長靴、そして忘れてはならないのが秋刀魚の入っていた発泡スチロールの箱の蓋。中身は秋刀魚でなくてもいいのだが、北海道や東北の漁港の名前が入っている蓋だと雰囲気が出る。バックホウのシートの上に置いて座ると温かいのだ。  エンジンは一発でかかった。よし、初陣だ。でも、真っ白に染まった景色があまりにも美しいので、シートに座ってしばらく眺めていた。エンジンの音は邪魔にならなかった。  昔、南の国に住んで初めて、自分の中にある日本の風景に気付いた。桜と、そして雪だ。 「冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。(略)」~清少納言「枕草紙」~  ところが、バックホーの操作が下手というか雑というか、除雪した後は雪と土が混じって見苦しく、「わろし」だ。でも除雪をしないと、「昼になりて、ぬるくゆるびもていけば」雪がとろけて、そうなると4駆でない車は村道から家までの100mはある坂を上れなくなってしまう。一冬に何回か下で車を乗り捨て、徒歩で家まで上がってくるが、それもまた、冬を体感できて楽しい。冬山登山の後のビールはうまい。  大雪で苦しんでいる人々がいるのに不謹慎だが、年々降る雪が減っている。昨冬も雪が少なかったから、車の運転は楽だった。でも、スタッドレスタイヤは1年で買い換えるはめになった。  寒さも昔ほどではない。厳寒の夜、あまりの寒さで立ち木が割れる音も、巡礼が鳴らす鈴の音のようなトラツグミ(鵺 ぬえ)の鳴き声も、しばらく聞いていない。

製材所

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 冬の初めに、幹の直径が2尺(約60cm)を超える欅を伐採した。薪にするつもりだったが、太くてもったいないのでそれを挽いて材にしようと運び込んで以来、村にある製材所に何度か通うようになった。  製材所に入るのは久しぶりだ。木を挽く轟音や針葉樹の材の瑞々しい匂い、働く人の真剣な表情。昔と同じだ。  2、30年前までは、どこの町や村にも製材所があったように思う。その町や村の地物の木を伐り、運び、挽いていた。人と木は今よりもっと身近だった。  子どもの頃、休日の製材所(「工場 こうば」と呼んでいた)は遊び場だった。いつもは木を挽く音で、近くを通りがかるだけでも友達とのお喋りが聞き取れない工場も、休日はひっそりと静かだった。  今では考えられないが、工場には易々と忍び込めた。忍び込んだと言っても、実は遊んでいる姿を近所の大人に見られていたのだが、叱られた記憶はない。自分も友達もスイッチや鋸の歯には決して触らなかった。紳士協定というか、スイッチや歯は大人の物という暗黙の掟を守った。  巨大な帯鋸はまるで人間を襲う怪獣の歯に思えた。あの頃人気だったウルトラセブンの見過ぎだろう。細長い木の皮は、怪獣と戦うための鞭にして勢いよく地面に叩き付けた。手に脂(やに)が付き、なかなか落ちなくて、土埃がくっつくと指先は真っ黒になった。幅の広い檜(ひのき)の皮「檜皮 ひわだ」や杉の皮は、別格扱いで保管されていた。屋根葺きに使われる売り物だったのだと大人になってから知った。  工場は夕方5時のサイレンで仕事が終わる。工員はまっすぐは家に帰らず、近所の酒屋で酒をひっかける。「盛っ切り」だ。その酒屋は母の実家で、子どもだった自分は、酒を飲みながら大声で話している飲んべえ達を観察していた。音のうるさい製材所で働いているせいだろう。大人達の地声は酒屋の中に大きく響き、怒鳴っているようで、少し怖かった。  夕暮れになり、風呂や夕餉作りに使う木の燃える煙と香りが町中に流れる頃、工員達は重い腰を上げて、ふらふらと小さな家に帰っていった。

雑の価値

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 雑木林を歩く。小楢(こなら)、欅、山桜、瓜肌、山紅葉、水木。水木の枝は小正月の団子刺しの行事に使う。小楢とはいえ、水楢に負けない太さのものもある。  お雑煮を味わい、健康のために白米よりも栄養のある素晴らしい?「雑穀」。  出し遅れた年賀状を書く。いつまで経っても雑な字は、味わいがあると思っている。  夏が来れば、庭は雑草王国になる。  去年、森の奥に去って行ってしまった年寄りの愛犬は雑種だった。いつも高台の山桜の木の根元に佇んで、わが家を見守っていてくれた。 「雑」を角川・新字源で調べてみた。形声文字で、意符「衣」と音符「集」から成り、いろいろないろどりの糸を集めて、衣を作る意味。ひいて「まじる」の意に用いる、とある。  三省堂「日本語学習のための よく使う順漢字2200」(徳広康代編著)によれば806番目に登場。N2・N3レベルで小5、漢検6級だ。意味は「いろいろなものが集まってまじる。ごちゃごちゃ。大事ではない。あらい」。「雑用」「雑(な)」「雑踏」「雑誌」「複雑(な)」「混雑(する)」「雑巾」「雑木・雑草」が取り上げられている。 「雑木」は、大修館・明鏡国語辞典では「種々雑多な木。また、材木としては使えない木」とある。でも、自分には雑木という言葉に、自然の美しさや、そこに生きる動物や人の営みを感じる。岐阜県高山市にある「オークヴィレッジ」が作る楢製の家具はとても美しいと思った。楢も雑木に括られる。年末に倒した欅は立派でもったいないから、木挽きしてもらった。立派な材木だ。何年か乾燥させて「暴れ」ないようになったら、机を作ろう。何年先か分からないけれど、その日を楽しみに待っていたい。  昔話のお爺さんが山で刈ってくる「柴」は、雑木の低い木や枝のことで、囲炉裏の薪(たきぎ)やしおりど(枝折り戸・柴折り戸)にしたのだろう。背負子(しょいこ)に束ねて家まで運ぶ。  川で洗濯する係のお婆さんは、洗濯の合間に、魚を獲る篭(かご)を川に仕掛けておいただろう。洗濯が終わり、篭の中を覗くといろいろな種類の小魚ばっかり。でも、「雑魚」などと思わず、川の神様に感謝して、お爺さんと一緒に夕餉においしく頂いたはずだ。大事に、大事に。  雑煮は好物だ。わが家の雑煮の具は、焼いた塩鮭、大根、人参、芹、柚子。出汁は塩魚汁(しょっつる)だ。父の先祖が千葉の養老の出身なので、この雑煮になったの...