雑の価値

 雑木林を歩く。小楢(こなら)、欅、山桜、瓜肌、山紅葉、水木。水木の枝は小正月の団子刺しの行事に使う。小楢とはいえ、水楢に負けない太さのものもある。

 お雑煮を味わい、健康のために白米よりも栄養のある素晴らしい?「雑穀」。

 出し遅れた年賀状を書く。いつまで経っても雑な字は、味わいがあると思っている。

 夏が来れば、庭は雑草王国になる。

 去年、森の奥に去って行ってしまった年寄りの愛犬は雑種だった。いつも高台の山桜の木の根元に佇んで、わが家を見守っていてくれた。

「雑」を角川・新字源で調べてみた。形声文字で、意符「衣」と音符「集」から成り、いろいろないろどりの糸を集めて、衣を作る意味。ひいて「まじる」の意に用いる、とある。

 三省堂「日本語学習のための よく使う順漢字2200」(徳広康代編著)によれば806番目に登場。N2・N3レベルで小5、漢検6級だ。意味は「いろいろなものが集まってまじる。ごちゃごちゃ。大事ではない。あらい」。「雑用」「雑(な)」「雑踏」「雑誌」「複雑(な)」「混雑(する)」「雑巾」「雑木・雑草」が取り上げられている。

「雑木」は、大修館・明鏡国語辞典では「種々雑多な木。また、材木としては使えない木」とある。でも、自分には雑木という言葉に、自然の美しさや、そこに生きる動物や人の営みを感じる。岐阜県高山市にある「オークヴィレッジ」が作る楢製の家具はとても美しいと思った。楢も雑木に括られる。年末に倒した欅は立派でもったいないから、木挽きしてもらった。立派な材木だ。何年か乾燥させて「暴れ」ないようになったら、机を作ろう。何年先か分からないけれど、その日を楽しみに待っていたい。

 昔話のお爺さんが山で刈ってくる「柴」は、雑木の低い木や枝のことで、囲炉裏の薪(たきぎ)やしおりど(枝折り戸・柴折り戸)にしたのだろう。背負子(しょいこ)に束ねて家まで運ぶ。

 川で洗濯する係のお婆さんは、洗濯の合間に、魚を獲る篭(かご)を川に仕掛けておいただろう。洗濯が終わり、篭の中を覗くといろいろな種類の小魚ばっかり。でも、「雑魚」などと思わず、川の神様に感謝して、お爺さんと一緒に夕餉においしく頂いたはずだ。大事に、大事に。

 雑煮は好物だ。わが家の雑煮の具は、焼いた塩鮭、大根、人参、芹、柚子。出汁は塩魚汁(しょっつる)だ。父の先祖が千葉の養老の出身なので、この雑煮になったのかと思う。以来「純粋に」この味を守っている。他の具を使わず、純粋に味を受け継いでも、やっぱり雑煮と呼ぶ。「雑」でなかったら、お湯に餅だけかな。雑煮でよかった。

 二十四節気の隙間を埋めるように季節を表す言葉が「雑節」。「土用(年4回)」「節分」「彼岸(春と秋)」「八十八夜」「入梅」「半夏生」「二百十日」。二十四節気も美しい言葉が並ぶけれど、雑節は人の暮らしに寄り添っている感じがして好きだ。

 庭に蔓延る(はびこる)草には、雑草という名の草はなく、「雀の帷子」(すずめのかたびら)などお仕着せのような名前が付けられていることなど知る由もなく、雑草魂を発揮している。

 雑貨も楽しい。雑誌もたまには。友達との雑談はついつい長くなってしまう。

 逆熟語にはいやな意味が多い、混雑、粗雑、煩雑、繁雑、複雑、猥雑。でも、自然な人間らしくていい。

 雑は、使い手の感覚が込められている。形、大きさ、用途、金額、真の狙い、価値観。どうやって学生に教えるか、難しく、面白い言葉だ。





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