春が流れる
昨夜の気温は3℃。乾いた薪を運んで久しぶりにストーブを焚いた。ここよりもっと標高の高い西の山では雪が降った。 それでも春は流れている。 河津桜が春を告げ、染井吉野が人出を誘い、都会の春が駆け足で去った頃、ここでは山桜が花盛りを迎えた。今は雪のように花びらが散ってくる。零(こぼ)れ桜だ。遠くの山には山桜よりほんのり赤い大山桜が見える。 白の石楠花(しゃくなげ)が森の中でひっそりと咲いていた。赤の方はまだのんびりしているようだ。石楠花の根元の木瓜(「きゅうり」でなく「ぼけ」)は赤と白がめでたく並んで咲いている。 朝倉山椒の木の芽が開いた。にしんの山椒漬けを仕込む時期であり、時機でもあり、時季だ。気分としては、木の芽を摘むと鮮烈な香りが漂って、時季、を使いたいな。朝倉山椒は天国の忍ちゃんから貰った。「実が成るぞ」と言ってたくせに、いつまでたっても実は成らない。聞いてるかい、忍ちゃん。 義父の愛したシラネアオイは、今年は青みが濃く、枯葉の色によく映える。天国から眺めていてくれるだろう。 里の水田では、早くも田植えが済んだところがあった。田んぼに張った水は青空を映し出し、水の底の方に空の高い方が溶け込んでいた。 「ゆら」のブレンドコーヒーが「春色カフェ」から「ハミングバード」に替わった。 森の春はゆっくりと、それでも、確かに流れていく。