野ばら
よく晴れた朝だ。幅の広い草の葉には、まだ霜がついている。そこに日光が当たって光り、生長の勢いを感じさせる。遠くから鶯の鳴き声が聴こえるだけだ。
大きな国の老兵士と、隣り合う小さな国の若い兵士が国境(くにざかい)を守る任務についていた。まだ争いはなく、蜜蜂の羽音で目覚めるくらい穏やかな日々が過ぎていく。静謐な光景だ。
言葉を交わすことのなかった二人が、次第に打ち解けてお互いにその存在に感謝し、やがて年の差も兵士としての階級も国も関係なく、友人として尊敬し合うようになる。
若い兵士は故郷に帰ったらピアニストになるという夢を語り、老兵士は彼のコンサートに行くことを望みにした。二人で未来を待つようになった。
しかし戦争が始まり二人は敵になった。それでも二人は、人としての生き方を選んだ。
そして、野ばらは枯れてしまった。
30年以上前に読んだ小川未明の「野ばら」を読み返した。光村図書の小学6年生国語の教科書から姿を消して久しい。
森の野ばらは5月には白い花を咲かせるだろう。ひまわりも芽を出した。
大きな国と小さな国にまた白い野ばらの花が咲くのを願っている。小さな国の青い空の下でたくさんの黄色いひまわりが咲くことも。
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