さよなら、冬の空

 啄木鳥(きつつき)が木をつつく音で目が覚めた。春だ。

 好きな相手ができたのだろう。晴れた空の下で、自分の想いを届けようと精一杯音を響かせている。「啄木鳥」は秋の季語。でも、春が近い今頃もいい。木を啄む(ついばむ)音は、秋のそれより軽快なリズムだ。

 節分が過ぎ、立春を越え、森にも春がやって来ている。もうちょっと冬を楽しみたかったのだけれど、しょうがない。そろそろ気持ちを春に切り替えよう。なんだか、心の「啓蟄」みたいだ。

 役目を終えて去って行こうとしている冬。別れの挨拶代わりに空を眺めてみる。透き通った淡い、それはそれは淡い青だ。風もない。「寒晴れ」「冬晴れ」「寒凪(なぎ)」。もう立春を過ぎたからどれもふさわしくない。あまりにまぶしい日の光に晒されているせいか、冬枯れはきまりが悪そうだ。そりゃそうだ。来週は「雨水(うすい)」。もう、芽吹きの日がやってくる。

 冬枯れには、「鈍色(にびいろ)」の空がいい。この言葉を初めて知ったのは二十歳の冬だったと思う。年下の女の子に教わったのだけれど、その女の子がとても大人に思えたことを覚えている。冬の金沢に出かけた時は、鈍色の空に稲妻が光り、雷鳴が聞こえたと思ったら、突然冷たくて強い風が吹きつけてきた。秋の終わり頃、この森の西に聳(そび)える山々の陰に隠れて出番を窺っていたあいつらの正体だ、と思った。

「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心」(石川啄木 「一握の砂」) 

冬ではなく夏の歌だろうが、初めて不来方を訪れたのが2月。ずいぶんと昔だ。厳しい寒さの日で、それ以来、冬の空を見上げた時もこの歌が頭に浮かんでくる。今朝は啄木鳥に起こされたし。

 カルメン・マキ&OZの「空へ」も、冬の空かもしれない。 




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