こぶし・先駆け
こぶしは美しい花だ。
寒さと暖かさが拮抗している頃、こぶしは真っ先に花を咲かせる。まわりの木々が出番を見極めている頃、春に向かう道標のように咲き始める。
その白は素朴で、清貧の白だ。「よい香りがする」と誰かに教わった記憶があるが、人を寄せ付けないような場所に立っているので、いつも遠くから眺めて満足している。だから、どんな香りか知らない。それで十分だ。
先駆けは、しかし真っ先に花を終える。
清貧の白は、風に乗って颯爽と散るのではなく、茶色になり、しぼみ、みっともない姿をさらしながら落ちていく。やがて山桜や連翹(れんぎょう)、八汐躑躅(やしおつつじ)など主役級の花や新緑が登場すると、こぶしは視界から消え、どこにあったのかさえ分からなくなっていく。その格好悪い消え方が、いい。
こぶしは美しい花だ。
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