おいしい水

 天気が不安定だ。晴れて油断していると、大粒の雨や大きな雹が降ってくる。農家は気が気でないだろう。

 それでも、水は恵みだ。

 この前の冬は、たくさん雪が降った。久しぶりにここいらの冬らしかった。雪が降ったことに安心している自分に気づいて、すっかりここいらの住人だなと思っておかしかった。

 雪はやがて飲み水になる。

 うちの水は、自治体が整備した水道ではなく、この地域に住む人たちが力を合わせ、知恵を絞り、整えた自主水道だ。

 春先、断水したことがあった。原因は、山椒魚。水を貯める配水池に山椒魚がたくさん入って給水口が詰まってしまったのだ。休日だったので、誘われて山椒魚を網で掬って逃がし、通水させた。山椒魚は、きれいな水の指標だ。西の高い山の雪解け水や雨が、何年かして地表近くまで上がってきた伏流水を水源としている。山椒魚は水の味が分かるのだ。

 夏には、トラックの荷台に乗せられて水源の草刈りをした。知り合いはみんな元気で若々しかった。山紫陽花が咲いている頃で、それを殖やす方法を教えてもらったり、うわばみ草を摘んだりして、森に住む仲間の連帯感を確かめるいい機会だった。現在は、あの頃力強かったみんなは年を重ね、今では若者にその楽しみを委ねるようになった。

 この水は軟水、しかも安い。基本料金は30立方メートルで1500円。超過しても1立方メートル30円だ。毎日遠慮せずに風呂や洗濯、庭の水遣りに使っても、基本料金を超えることはまずない。

 炊飯、味噌汁、コーヒー、お茶。でも何よりそのまま飲む水のうまさ。「甘露」だ。

 ある夜中、喉が渇いて目が覚め、水が飲みたくて蛇口をひねった。

 水の勢いが強過ぎたのだろう、コップに入った水は全部押し出されて、コップには溜まらなかった。何を学ぼうか。




 2番目においしい水。

 ときどき1番。

 

水源の山々。永遠に。

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